マイナビやDODA、Greenなどの媒体に掲載した求人広告。今年に入ってから300万円以上の掲載料を支払ったにも関わらず、未だに1人の人員も確保できていない。
中小企業が抱える求人の問題は、”雇う側の理想”と”雇われる側の理想”に差があり過ぎて、想像以上に根が深い。
圧倒的な売り手市場
掲載している求人の内容は大まかに下記のようなもの。
- 業種 :SE・システム開発
- 条件 :未経験可能/学歴不問
- 年収 :350万円~(未経験の場合)
- ボーナス:年2回(合計で基本給×4)
- 決算賞与:あり(年収には含まれない)
- 休日 :完全週休2日
- 残業 :~月15時間(給与に含む)
- 勤務地 :大阪(社内100%派遣等なし)
同じ地域、業種で掲載している他の求人内容と比べても、決して悪い方ではない。
繁忙期に4週間(130万円)の掲載で応募は6件
求職者に最も動きがある時期に130万円かけて4週間掲載した結果、応募はたったの7件。
大手求人媒体という存在を疑いたくなるレベルの結果ではあるものの、実際問題として『圧倒的に働き手が足りない』という現実がある。
内定を出しても来てもらえない
選り好みをして雇えないというわけでは決してない。他の掲載媒体含め、数少ない応募の中から「この中なら、この人」という形で5人に内定を出した。
内定を通知すると決まって言われるのが「もう1社最終面接に受かっている所があるので、そこの結果も併せて考えたい」や「他に内定もらっている所と併せて考えます」という答え。
内定起業の中には、名前くらいは聞いたことがある大企業も含まれているのだろう。そうなると、中小企業に勝ち目はない。
「入社します」という返事が届くことは1度もなかった。
働き方の多様化
最近は色々なメディアで「働き方」が共有されるようになったからなのか、面接をしていると色々な声を聞くことができた。
1分たりとも残業はしたくない人
投げかけてくる質問は「お金」と「休み」のことばかり。「転職理由はお金です」と明言する彼は、前年の決算賞与60万円というキーワードに惹かれて面接にやってきた。
仕事を頑張る理由は人それぞれ異なるので、人柄優先で最終面接まで進めたのだけど、最終面接で彼は「1分も残業したくないです。それでも良いなら入社します」と言った。
ウチの会社で残業0分は現実的に不可能なことを伝えると辞退となった。
フレックス勤務・リモートワークを希望する人
販売系から未経験での転職を希望してやってきた彼は、IT業界に強い勘違いを抱いていた。
「必要なときは出社するけど、そうでないときは自宅で作業したいです」という彼は未経験で、自宅にはパソコンがないと言う。返す言葉に詰まってしまった。
技術力の高い外注さんに「フレックス勤務やリモートワークでも良いから手伝ってください」とお願いすることはあるけど、社員としては難しいということを伝えると辞退となった。
副業の許可を最優先に考える人
フリーランスからの転職を考えている彼は「フリーランスとしてやってきたことを副業として続けたい」と言っていた。
会社的には「本業に支障が出ない範囲であれば」ということになっている。実際、私は空いた時間に副業(ブログ運営)をしている。しかしながら、彼の副業は少々違っていた。
「買い付けには自分が行かないといけないので、週に1度は有休を取得したい」と言う彼に、本業に支障を与える副業は難しいことを伝えると辞退となった。
出したくても出せない給与事情
求人広告は『誰からでも見える場所』に掲載されることになる。もちろん、働いている社員達も見ることができてしまう。
現社員との給与感という名のしがらみ
”未経験可能、学歴不問、最低年収600万円”という求人広告を掲載すれば、今の求人事情でも人がわんさかやってくるのかも知れないけど、現実はそんなに甘くない。
「自分たちは何年も会社に貢献して年収400万円なのに、未経験の新入社員が年収600万円なのはおかしい」という、至極まともな不満が上がってきてしまう。
「今の時代はそうでもしないと人が取れない」という事実や「人が取れないと現場が回らない、仕事をこなせない」という現実を見ているのは経営者と一部の役員だけ。
現在働いている社員にとっては『非常におもしろくない話』になってしまう。
しがらみによって生み出される負の連鎖
だからといって、全社員の給与を600万円まで引き上げることなどできるはずもない。そのため、現社員との給与感を加味した提示額と求職者が望む給与感に大きな開きが生まれてしまう。
社員の給与を上げることはできない、求人の給与条件を上げないと人がきてくれない、どちらに転んでも上手くいかないという負の連鎖が起こってしまう。
派遣業界も単価高騰で八方ふさがり
ウチの受け値が1日4万円なので、1ヶ月の売上は1人あたり80万円になる。
人手不足の影響で派遣業界の単価は高騰していて、昨年は1ヶ月65万円だった人が、今年は1ヶ月73万円になった。
派遣の人を呼んできて、案件を消化するだけで得られていた利益は15万円から7万円にまで下がってしまった。
仕事の取り方に問題があると言われてしまえばそれまでだけど、派遣の人の管理費を考えると、7万円だと良くてトントン、下手すると赤字になってしまう。
だからと言って人工は上げられない
ウチの会社にしかできない(ウチが受けるから工数が短くて済む)という部分が若干含まれるにしても、クライアントは1日4万円という値頃感を加味して仕事を出してくれている。
「人件費高騰の時代だから」と言って「明日から人工5万円に値上げ」なんてことをしてしまうと、必ずしも仕事が降りてくるとは限らなくなってしまう。
中小企業の受託ありきの弱みがここにある。
課題は働き手が少ない時代をどう生き抜いていくか
会社の課題は「少ない働き手をどのようにして確保していくか」だけど、働き手である私にとっては、会社側が必死に考えて何とかすれば良い問題でしかない。
そんなことよりも『働き手が少ない時代をどのように生き抜いていくか』という働き手側の課題をしっかりと考えなければいけない。
数年前に増加したフリーランスが、最近になって企業に就職するという事態を良く目にするようになった。様々な背景があってのものだけど、そこには企業が個人を評価する時代になってきたという側面がある。
事実、会社から「誰か知り合いで良い人いない?」と聞かれる頻度は各段に高くなった。
私は志が高くないので「自分を磨け!」なんてことは絶対に言わないけど、「自分の武器はコレです」と言える人が勝ち上がって行く時代になるのかなと。そう感じている。
あとがき
先にも書いたとおり、私は志が高くないので『会社からある程度の給料をもらって、自分に都合の良いスタイルで働かせてもらう』という生活を送れればそれで良い。足りない分は、副業で賄えば良い程度に考えているので「スキルアップして高給取りになるぞ!」なんて気持ちは微塵も持ち合わせていない。
最近はそんなことを言っても、誰にも笑われない、誰にも後ろ指さされない時代になってきた。人それぞれ違った生き方を選べる時代になってきた。
だからこそ、雇う側は「旧式のルールを排除していく努力」が必要なのかなと。そう思う。